手塚治虫『火の鳥』異形編 考察 無限の時間の中で会得した無の境地

2018年5月2日

こんにちは、べっちです。

今日は、手塚治虫『火の鳥』異形編についてお話します。

今回の異形編は、これまでの作品とは違って割と単純に楽しめる作品でした。

主人公が死んでしまうのはいつもの通りでしたが明らかに自業自得でしたし、他に死んでしまう人はおらず理不尽さも最小限だったと思います。
 

話の構造はこんな感じです。

・人を斬る
  ↓
  ↓ (1)
  ↓
・火の鳥の不思議な力により30年前にワープ
  ↓
  ↓ (2)
  ↓
・30年経過
  ↓
  ↓ (3)
  ↓
・30年前の世界の自分に斬られる
  ↓
  ↓ (1) 繰り返し
  ↓  (ワープするのは30年前の世界の自分)

 
・・・読み終えて、「世にも奇妙な物語」を彷彿としてしまいました。

「世にも奇妙な物語」も、時間が歪む話は時々出てきますので。 
 

まぁ、「火の鳥」の方がぜんぜん先駆けなんですけどね。。
 

30年のループは無限ではないかもしれない

この30年の間のループは無限に続くかに見えて、物語では描かれませんでしたがどこかで終わりが来るような気がしてなりません。

というのも、1回目(斬るシーン)と2回目(斬られるシーン)では、若干セリフが異なっているんです。

↓↓ 1回目と2回目が2秒おきに切り替わります。
  赤枠部分のセリフが異なっています。

ph1
出典:手塚治虫『火の鳥』異形編

↓↓次のページです。

ph2
出典:手塚治虫『火の鳥』異形編

本当に30年ごとに時間が繰り返されるだけであれば、話す言葉も完全に一致するはずです。

でも、ほんの少しでも違うセリフを話しているので、これは完全な繰り返しではありません。
  

しかも、1回目と比べて2回目の方がだいぶ優しいセリフになっています。

これは、事態が少しずつ好転していることを示唆しているのではないかと思うのです。
 

毎回少しずつ変化しながら30年ごとのループを繰り返すうちに、もしかしたら斬ることを思いとどまるような会話を交わす時が来るかもしれません。

斬ることをやめさせることができれば、罪自体が無いわけですからさすがの火の鳥も許してくれるのではないかと思います。
 

また、どうせ斬られることが分かっているのなら、自ら命を絶ってしまうというのも一つの手段かもしれません。

そうすれば、30年前の世界の自分は、人を斬るという罪を犯さずに済み、30年の無限ループもそこで途切れるでしょうから。
 

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火の鳥はとっくに許していたのでは?

左近介が30年前にワープして10年経って「火の鳥」と出会った時、火の鳥はこう言います。

次の三十年の逆行までほんの一日 この場所は外へひらくのです

もし罪が消えていればその機会にそとの世界へのがれることができよう

そしてその20年後、実際にその場所は外へひらかれ、左近介もお城に行くことができました。
 

ここで思うのは、もし「火の鳥」がまだ左近介を許していなかったとしたら、左近介が城に行くことなんて出来なかったのではないか?ということです。

左近介は長い間昼も夜も休まず訪れる人や妖怪の治療を続け、悩みを忘れ無心の境となっていったとあります。

そこまでの功徳を積んだことにより、さすがに火の鳥も許し、閉鎖された時空から出られるようにしてあげたのではないかなぁ、と思うのです。
 

外へひらかれた日、左近介は加平だけは逃がすと決め、

私は ここからまだぬけ出せません
それは鳥との約束だからです……

と言います。
 

でも、「鳥との約束」があると言ったのは方便だったのではないかとも思えます。

自分自身が無限の時間の中をループし続ける運命にあることを、すっかり受け入れてしまったように思えるのです。
 

30年間、傷ついた人や妖怪を必死に助けつづけたのも彼女の「生きがい」だったのだと思います。

次第に「無我の境地」まで会得してしまい、死ぬことも無限の時間も何もかも、怖い物なんて無くなってしまったのではないでしょうか?

無限の時間の中でも自分の使命を見つけてしっかり生きていった左近介は、本当に強い人だと思います。
 

それからふと思ったのですが、八百比丘尼が800歳と言われる理由は、30年のループを25回以上繰り返したからかもしれません。

30年過去にワープするたびに、30歳ずつ増えていくイメージです。
 

25回以上もループして徳を積み続けたのであれば、もうそろそろ「火の鳥」の方から
「あなたにはそれ以上の罰は無用です」
と、斬られそうな八百比丘尼の前に割って入ってくるのも時間の問題かもしれませんね。
 

終わりに

「黎明編」から始まり「異形編」まで読み通し、早いもので残りは「太陽編」を残すのみとなりました。

「太陽編」の表紙には犬人間みたいのが載っているのだけれど、これはいったいどういうことなんだろう。

どこかの惑星に住む犬のような形の生命体なのか、
はたまた人間と犬との混血なのか、

最終巻は20世紀の日本だと思ってたけれど、違うのでしょうね。
 

かなり長い話のようなので、気合を入れて読もうと思います。
 

それでは、今日も最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

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