手塚治虫『火の鳥』羽衣編 感想 究極の愛をつづった名作

2018年5月2日

こんにちは、べっちです。

今日は、手塚治虫『火の鳥』羽衣編についてお話します。

「羽衣編」は「火の鳥」には珍しく、始めから終わりまで純粋な「愛」に満ち溢れた作品でした。

他の作品では、「愛」と背中合わせのようにドロドロとした「憎しみ」がうごめき、心がズーンと沈むような場面も多いですからね。
 

今回は「羽衣編」の愛のシーンについて、以下の3つに分けてお話していきます。

  • トトがおときに恋をするシーン
  • 「おとき」が「トト」のために大事な「羽衣」を渡してしまうシーン
  • トトが羽衣を守り抜いたシーン

途中ネタバレを含みますので、まだ読んでいない方は注意してくださいね。

トトがおときに恋をするシーン

まず、漁師の「トト」が美しい羽衣を来た「おとき」に求婚するシーンについてです。

「トト」は空から来たという「おとき」を天女だと思い込み、

おまえさん!!もし天女ならおらの家に住んでくれろ
天女がおらッちにいればおらも幸せになれるし……働く気もおこるでよ

と言い出します。

そして、御法度を犯して禁漁の海から「おとき」のために魚を取ってきます。
 

これ、口では「自分の幸せのため」みたいなことを言っていますが、本当はこの時点で完全に「おとき」にべた惚れしていますね。
 

「トト」は最初に「羽衣」を拾った時に町で売ってしまっても良かったハズなのですが、その後「おとき」の身の上話を聞き始めたところからみると、最初から一目惚れしていたんじゃないかなぁ、と思います。

いきなり今まで見たことの無かった女の人のはだかを見ちゃったのも大きいかったかもしれません。
 

それからの3年間は、一人の女性と、そして生まれてきた子供のために一生懸命に働いて、さぞ生きがいのある幸せな日々だっただろうと思います。
 

そう考えると、「ヤマト編」の記事 でも触れましたが、僕自身の今の生活は大変なこともあるけれど、妻や子供たちのために頑張る日々は幸せそのものなのだろうなぁと改めて思えてきます。

「おとき」が「トト」のために大事な「羽衣」を渡してしまうシーン

「おとき」が「トト」と暮らすことを決めたのは、
「そんなに悪い人でもなさそうだし、羽衣のためなら仕方ないかな?」
くらいの考えだったかもしれません。

でも、「トト」と暮らす3年間の中で次第に愛情も芽生えていき、子供まで産まれることになります。

これはきっと、「トト」の愛情、人の良さ、ひたむきさが、「おとき」の心をだんだんと「トト」に向けさせるようになっていったのだと思います。
 

あのまま戦が始まらず、平和な暮らしが続いたら、「おとき」も未来に帰ることなく「トト」に寄り添ってと静かで幸せな人生が送れたかもしれないですね。
 

ですが、手塚治虫先生のマンガ、特に「火の鳥」では悲劇は付き物で、あのまま平和が続いて話が終わる訳ありません。

戦乱の世ではいつの時代でも、あんな風にムリヤリ戦地に連行されてしまうものなのでしょうか。

本当に恐ろしいことです。。
 

そして、「おとき」は最初の「羽衣」を取り返すという目的を反故にして、「トト」が連行される代わりに「羽衣」を役人に渡してしまいます。

これは、現実世界にあてはめれば、全財産を投げうって夫の命を救った位のことをしていると思います。
 

これを読んだ時に、究極のところ人生で何が大事かって、この位の人間関係を築くことができるかどうかかもしれないな、と感じました。

3年間の暮らしの中でここまでの絆を深めることができた二人が、なんだかうらやましくなってしまいました。

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トトが羽衣を守り抜いたシーン

「おとき」のために羽衣を取り返しに戦地に赴く「トト」、本当にかっこいいですね!
 

未来の「羽衣」が過去に渡れば歴史が変わってしまうというタイムパラドックスの話をしても、

そんなむずかしいことァおらにゃわかンね
とにかくあれを取り返してくる!!おとき待ってな

と、事情もちゃんと分かってもいないのに命を張れるってスゴイと思います!
 

でも、「羽衣編」の最大の切なさは、「トト」が羽衣を取り返して瀕死で帰ってくる直前に、「おとき」が未来に帰ってしまう場面ですね。

「羽衣編」は全般を通して舞台のような設定ですが、このすれ違いのシーンは本当に舞台を見ているかのような臨場感がありました。
 

死ぬ前におときに一目でも会いたかったでしょうに、さぞ悔しかったでしょうね。

そして、もう死にかけている中、羽衣を埋めて、最後まで守り抜いたのは、まさしく究極の愛でした。
 

「トト」は死なずに「おとき」に羽衣を渡す展開や、最悪死ぬ前に「おとき」に出会える展開もありえたと思います。

でも、手塚先生流の「究極の愛」を表現したらこうならざるを得なかったのかもしれません。
 

死ぬ間際でも愛する人のことを第一に考えるって、僕にできるかな。。

少なくとも、2016年にガンになって絶望に打ちひしがれていた時は、僕自身の苦しみのことしか頭にありませんでした。

そう考えると、40歳を目前にして
「僕は人としてまだまだなんだなぁ」
と反省しきりです。

トトみたいにいきなり気高くなるのは難しいかもしれませんが、少しずつでも「愛情」の心を自分の中に育てていかなくては、と今感じているところです。

終わりに

火の鳥「羽衣編」は比較的短い話でしたが、「愛」がギュギュっと詰まった読み応えのある作品でした。

また、未来での戦争を逃れてせっかく過去に来たのに、その過去でも戦に巻き込まれてしまう、という「反戦」のメッセージも強く込められた作品です。
 

でもちょっと、「火の鳥」があまりにチョイ役過ぎた感はありますけどね。。

姿を現す事もなく、話のなかで少し出て来た位でしたので。
 

それに、タイムパラドックスの危険を認識しながら過去に「おとき」を送るって、またまた何とも理不尽なことしますね。。

次の望郷編でも、きっと「火の鳥」はとんでもない理不尽をしでかすに違いありません。。
 

それでは、今日も最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

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