手塚治虫『火の鳥』エジプト・ギリシャ・ローマ編 感想 卵から生まれたチロルちゃんが可愛らしい!
こんにちは、べっちです。
今日は手塚治虫『火の鳥』の、
エジプト・ギリシャ・ローマ編
についてお話します。
『黎明編』よりも古い物語があった!
僕はこの春に、Kindle版の『火の鳥』(手塚プロダクション)は全巻(1巻~16巻)を読破していまして、火の鳥はこれで全てだとばかりだと思っていました。
ですが調べてみると、角川文庫の「火の鳥」の最終巻(13巻)には、Kindle版で一番最初の時代の『黎明編』よりも前に書かれた話が収録されていることを知りました。
というわけで、早速「角川文庫版」の火の鳥13巻、購入して読んでみました。
エジプト編⇒ギリシャ編⇒ローマ編は連続した物語
本のタイトルは「ギリシャ・ローマ編」となっていますが、
実際には「エジプト・ギリシャ・ローマ編」と言った方が正確です。
エジプト編から始まり、ギリシャ編、ローマ編まで連続した一つの話でしたので。
恐らく、「エジプト」は長いのでタイトルからは省略したのだと思います。
いつぐらいの時代が舞台なのか?
エジプト編の冒頭に今から3000年ほど前という紹介がありましたので、エジプト編は紀元前1000年ごろですね。
続くギリシャ編はそのまま一続きになっていますので、同じくギリシャ編も紀元前1000年ごろとなります。
ただ、ギリシャ編の作中に「トロイの木馬」のエピソードがあり、史実としての年代ははっきりしていませんが、紀元前1200頃という説が有力のようです。
なので、エジプト編とギリシャ編は紀元前1200年ごろの話で、続くローマ編は300年後の話ということなので、紀元前900年ごろの話ということになります。
つまり、
・エジプト編:紀元前1,200年ごろ
・ギリシャ編:紀元前1,200年ごろ
・ローマ編:紀元前900年ごろ
ということになります。
手塚先生のいつごろの作品なのか
Kindle版の『火の鳥』1巻 黎明編は、1967年(昭和42年)に書かれたものですが、エジプト編が書かれたのは遡ること11年前、1956年(昭和31年)となります。
さらに、『火の鳥』には一番最初の作品として、昭和1954年(昭和29年)に書かれた未完の「黎明編」が存在します。
合わせて表にまとめると、以下のようになります。
黎明編 (元祖・未完) |
1954年 (昭和29年) |
25歳ごろ |
エジプト編 | 1956年 (昭和31年) |
27歳ごろ |
ギリシャ編 | 1956年 (昭和31年) |
27歳ごろ |
ローマ編 | 1957年 (昭和32年) |
27歳ごろ |
黎明編 | 1967年 (昭和42年) |
38歳ごろ |
・・・ | ||
太陽編 | 1988年 (昭和63年) |
59歳ごろ |
つまり、エジプト・ギリシャ・ローマ編は全て手塚先生が20代の頃に書いた作品ということになります。
ということは、20代の頃に書き始めて、60歳で亡くなる直前まで、35年もの間『火の鳥』を書き続けたことになります。
まさに手塚先生の人生を賭けた作品ということになりますね。
エジプト・ギリシャ・ローマ編の内容は?
この頃の『火の鳥』は、後に書かれた『火の鳥』シリーズとはかなり異なる作風でした。
特徴としては、以下が挙げられます。
- 子供向けに描かれている
- 火の鳥の寿命が短い
- 一組の男女の愛の物語
それでは、順に見ていきましょう。
子供向けに描かれている
Kindle版に収録されている『火の鳥』は、読めば読むほど心に重く「ずーん」とのしかかってくる感覚がありました。
これに対して、最初期の「エジプト・ギリシャ・ローマ編」は、子供向けに描かれており、それほど重たいストーリーでは無いといった印象です。
それでもやはり人が死ぬシーンはあり、やはり手塚先生の作品らしいなと感じるものの、後期の作品のような惨さはそれほど感じませんでした。
↓ 冒頭のタイトル部分もメルヘンチックで、子供向けに可愛らしく描かれています。
火の鳥の寿命が短い
『未来編』などで描かれる火の鳥はまさに『不死鳥』で、宇宙の寿命と同じだけ生きるような設定になっていますよね。
ところが最初期の『火の鳥』の寿命は、たったの3000年です。
3000年でもずいぶん長いと感じるかもしれませんが、何億年経っても死なないことに比べたら非常に短い寿命だと思います。
なお、人間が火の鳥の生き血を飲んだ時の寿命も、最初期の設定では火の鳥と同じ「3000年」とされていました。
他にも『火の鳥』の設定については違いがあり、まとめると以下のようになります。
最初期 | 後期 | |
---|---|---|
火の鳥の寿命 | 3000年 | 永遠 (宇宙と同じ?) |
生き血を 飲んだ 人間の寿命 |
3000年 | 永遠 |
火の鳥の誕生 | 3000年生きると 卵を産み 卵から誕生 |
宇宙と共に誕生? |
変身能力 | なし | あり |
不死身性 | 不死身だが 子供が産まれると 自ら死ぬ。 死ぬことで子供に 不死身が継承される |
不死身 |
エジプト・ギリシャ・ローマ編では生まれてきた火の鳥の若鶏「チロル」ちゃんの姿は可愛らしくてとても癒されました。
それにしても、火の鳥の生き血を飲むと寿命が3000年に延びるというのはなかなか魅力的のように感じます。
「永遠の命」の恐ろしさは未来編で嫌というほど思い知らされましたが、100年も生きられない人間の寿命は、やはり短くて儚いなぁと思っています。
一組の男女の愛の物語
少しストーリーのネタバレになってしまいますが、エジプト編→ギリシャ編→ローマ編と、同じ一組の男女が登場します。
エジプト編で火の鳥の生き血を飲んで3000年の命を得た二人が、そのままギリシャとローマでも出てくるのです。
ただし単純に引き続き登場するのではありません。
エジプト編とギリシャ編の最後で二人は殺されてしまうのですが、次の舞台で記憶を失った上で生き返るのです。
記憶を失っていても、二人はしっかりとした愛情で結ばれて活躍するあたり、若い頃から根底にあった手塚先生節を感じるストーリー展開でした。
まとめ
エジプト・ギリシャ・ローマ編についてまとめると、
- 手塚先生が20代の頃に描いた、子供向けの『火の鳥』
- 後に描かれた『火の鳥』とは異なる設定。
特に『火の鳥』に寿命がある点が違う。 - 「愛」と「命」を伝える手塚先生節はしっかり感じる作品
でした。
次回は、角川文庫版の13巻に収録されていたもう一つのエピソード、元祖「黎明編」についてお話しますね。
それでは、以上よろしくお願いします。
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